生前贈与とは
一般的に贈与とは、自分の財産を無償で他の人に与えることを言います。その中でも「生前贈与」と言われるのは、相続対策を目的とした贈与を言います。
生前贈与の主な目的は、相続税対策です。また、「夫婦で住んできた家に妻が住み続けるようにしてあげたい」、「法定相続人ではない孫に財産を残したい」など、遺言書よりも確実に自分の望む相手に特定の財産を残す目的で利用することもできます。
ただし、ただ贈与するだけでは、相続税よりも税率の高い贈与税を支払わなければいけなくなります。その為、贈与税が非課税となる制度や、贈与税率が軽減される制度を利用することをお勧めします。
※生前贈与を含め、相続税対策は税理士の先生をご紹介、または連携させていただくことも可能です。
毎年110万円までの贈与は無税でできる
年間、一人当たり110万円までなら贈与税はかかりません。相続人に限らず誰でも贈ることができるので、少しずつ自分の財産を子供や孫に贈与することで相続税対策をすることが可能になります。このような贈与方法を暦年贈与と言います。
しかし、そこで注意して欲しいのは、毎年同じ時期に同じ金額を贈与していた場合、「最初からまとまったお金を贈与するつもりだった」と判断されてしまい、多額の贈与税が取られる場合があります。そのように判断されない為には、都度、贈与契約書を作ることが望ましいです。なお、贈与契約書は、「110万円を10年間払い続ける」といった内容で書いても、やはりまとまった金額を贈与する予定だったという証明になってしまうので、「都度書く」という点に注意してください。
また、贈与税は贈与を受ける側が支払う税金です。そのため、贈与を受ける側がその年の1月から12月末までの間に受けた贈与の合計金額が110万円まで非課税だという意味になります。例えば、父親側の祖父から90万円、母親側の祖父から110万円、合計200万円の贈与を受けた場合は、110万円を引いた90万円には贈与税がかかってしまいますのでご注意ください。
教育資金の一括贈与
基本的にはお孫さんは、法定相続人になりません。そのため「教育資金の一括贈与による贈与税の非課税制度」を利用してお孫さんに生前贈与をしたいと望む方もいらっしゃるでしょう。
この制度は、30歳未満の人が父母や祖父母から教育費に充てるための資金の贈与を受けて、その資金により金融機関などで教育資金口座を開設した場合には、1,500万円まで贈与税が非課税となるものです。平成31年3月31日までの期間限定で行われています。
しかし、お金を引き出す際に金融機関へ領収書の提出が必要など、面倒な点があることや、贈与額を使いきれなかった場合の贈与税や、贈与のし過ぎで自分の老後の資金が不足したなどのデメリットもあります。
実は、家族間での教育費や生活費などの都度渡しは贈与税がかかりませんので入学金などを都度負担してあげる方法でもよさそうです。
贈与する側がご高齢などの理由で、都度渡しを続けることに不安な場合などは有効な場合もあると思われますので、贈与する金額をお子様やお孫さんとよくご相談の上この制度を利用することをお勧めします。
同様の制度に「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」もあります。こちらは結婚や出産、子育てにまつわる資金が上限1000万円(結婚関係は300万円)まで非課税になる制度です。
不動産の生前贈与
不動産の生前贈与は、遺産相続で争うリスクを軽減させる、家賃収入などにかかる相続税を軽減させる、相続による名義変更に比べて収集する書類が少ないため手続きの負担が減るなどのメリットがあります。
しかし、相続とは異なり、不動産取得税や贈与税が余計にかかったり、登録免許税が割高だったりと、税制面でデメリットになってしまう可能性があります。そのため、相続した場合、生前贈与を受けた場合どちらにどのようなメリットがあるか専門家に相談しながら慎重に検討して下さい。砂川司法書士事務所では税金の専門家である税理士の先生のご紹介や連携が可能です。
不動産にまつわる贈与税の非課税制度がありますので、それらを利用しての贈与をおすすめします。
相続時精算課税制度
60歳以上の親から20歳以上の子供又は孫へ贈与する場合、2,500万円まで非課税だが、相続時に贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算する制度。
相続時に贈与分の金額も加算されてしまうわけですから、将来相続税が発生しない方に適している制度です。
贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦間で自己が住むための居住用不動産や居住用不動産を取得するための資金を贈与する場合、110万円の基礎控除に加え、2000万円まで控除できる制度。
贈与税の配偶者控除の条件は?
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 贈与された財産が、配偶者が住むための居住用不動産または居住用不動産を購入するための資金であること
- 贈与した翌年の3月15日までにその居住用不動産に住み、その後も引き続き居住する見込みであること
- 同じ夫婦間でこの控除の適用を過去に受けていないこと
これらの要件がすべてそろっていれば、贈与税の基礎控除である110万円と合わせて最大で2110万円まで控除が可能になります。
贈与税の配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲
居住用家屋とその敷地は一括して贈与を受ける必要はありません。また、敷地の一部の贈与であっても、配偶者控除を適用できます。
居住用家屋の敷地のみを贈与し、配偶者控除を適用する場合は次のような条件に当てはまっている必要があります。
- 夫又は妻が居住用家屋を所有していること
- 贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有していること
購入資金を贈与するより不動産の贈与がオススメ
居住用不動産を取得するための資金の贈与も配偶者控除の対象となりますが、不動産を購入予定の現金を贈与するのと、土地や建物を贈与するのとでは、はたして、どちらが有利だと思いますか?
この場合、財産の評価方法がポイントとなります。土地は路線価で評価し、建物も固定資産税評価額を用いて評価します。路線価は課税価格を計算する基準となるものであり、土地取引の指標となる公示地価(地価公示価格)の8割程度の価格に設定されています。そのため、その土地の実際の売買価格より低くなります。また、建物に関しても新築物件の売買価格よりも評価額が低くなる可能性が高いので、資金を贈与するよりも不動産を贈与した方が有利だと考えられます。
例えば、2500万円で土地を購入予定の人にその資金を贈与しようとすると、その一部の2110万円(基礎控除の110と配偶者控除の2000万円を合わせた金額)までが控除の対象となり、残りの390万円は課税対象となってしまいます。しかし、購入後に贈与した場合、仮に8割の評価だと、2000万円となり全額を控除することができるのです。
購入直後の贈与は、取得資金で評価されてしまう可能性もありますので、購入して数年が経過し、実際の不動産評価額を確認してから贈与を検討されると良いでしょう。
将来の所得税対策としての贈与
贈与は相続税対策だけでなく、自宅売却時の所得税対策にもなります。自宅を売却して売却益が出た場合、一定の要件を満たせばその売却益から最高3000万円が控除される特例があります。
この特例では、土地と建物の両方を夫婦で所有すれば、夫婦それぞれに3000万円の控除が適用される為、夫婦合わせて最大6000万円の控除になるのです。その為、3000万円以上の価値がある自宅を所有している場合、配偶者控除を利用し持分贈与をおこなうことで将来の売却時の所得税対策になります。ただし、注意しないといけないのは、贈与税の配偶者控除は居住し続ける見込みのあることが条件ですので、贈与してすぐに売却するのではなく、あくまで将来の売却に備える為の贈与と考えてください。
相続に関するその他の説明は以下をご覧下さい。
>>相続放棄の説明はこちら→
>>遺言の説明はこちら→
>>成年後見の説明はこちら→
砂川知明