相続 よくある質問 「相続放棄について」

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Q_30妻の債務は相続したくないが

 

私の妻は商売に失敗し、多額の債務を残したまま亡くなりました。私と子どもは相続人としてこれらの債務を支払わなくてはなりませんか。債務を免れる方法がありますか。

A_30 相続人は、相続により債務も承継する事になりますが、相続放棄の手続きを取れば債務を免れる事が出来ます。

「被相続人の債務の相続はどうなるか」

橙分厚い1冊_125x100 被相続人が債務を負っていた場合、その債務は相続が始まると当然に分割され、相続人が相続分に応じてこれを引き継ぐ事になります。例えば妻が亡くなり、1,000万円の債務があった場合、夫がその相続分2分の1にあたる500万円の債務を引き継ぎ、子がその相続分2分の1にあたる500万円の債務を引き継ぐ事になります。この様に債務は相続人間での遺産分割をまたず、当然に承継されます。

「相続の放棄とは」

5冊横積_96x100 そこで、相続人が被相続人の債務の承継を免れる為には、相続放棄の手続きを取る必要があります。相続放棄は、相続人が家庭裁判所に相続放棄の申述をし、この申述が家庭裁判所に受理される方法によって行われます。この方法ではなく、家庭裁判所と関係なく相続放棄の書類を作ったとしても、債務を免れるという意味での相続放棄の効力は生じません。一般にいわれている相続放棄は、たんに遺産を取得しないという意味にすぎない事もあります。この場合、遺産分割協議の効力が生ずる事がある事は別としても、債務を免れるという効力は生じません。

「相続放棄の効力」
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相続放棄をすると、被相続人の債務の承継を免れると同時に、被相続人の財産も承継する事ができなくなります。つまり、相続放棄をした者は、その相続に関しては始めから相続人とならなかったとみなされます。
ですから、第1順位の相続人全員が相続放棄をすると第2順位の相続人が相続する事になります。ご質問の場合、夫と子が相続放棄をすると、被相続人の直系尊属が相続人になりますし、直系尊属が相続放棄をすると兄弟姉妹が相続人になります。それぞれの立場で被相続人の債務を引き継ぎたくなければ、相続放棄の手続をとる必要があります。相続放棄は相続人全員が一致して行う必要はなく、一人一人が行う事ができます。

「相続放棄の期間」
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相続放棄は、相続人が自己の為に相続の開始があった事を知った時から3か月以内に家庭裁判所に対する申述をしなければならない事とされています。
この“自己の為に相続の開始があった事を知った時”の意味は、一般には、相続人が被相続人の死亡のほか、自己が相続人になった事をもあわせて知った時をいいます。さらに裁判例では、相続人が債務を含めて遺産が全くないと誤信した為相続放棄の手続をとらなかった場合で、相続人の誤信がやむを得ないと認められる場合には、例外的に、被相続人の債務を含めて遺産の存在を知った時から3か月間は相続放棄を認めています。

また、相続人が、被相続人の死亡の事実及び自身が相続人である事を知ったが、被相続人において全ての財産を他の相続人に相続させる旨の公正証書遺言をしていた事から、みずからは被相続人の積極及び消極の財産をまったく承継する事がないと信じ、かつこの様に信じた事について相当な理由がある場合には、当該相続人についての相続放棄の熟慮期間は、債権者から催告をうけ、これにより債務の存在を知ってから3か月であるとされた事例があります。

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Q_30相続放棄ができるのはいつまでか

 

私の母は10年以上前に父と私を置いて家を出てしまい音信不通となっていたところ、母が死亡したとの連絡があり、遺体を引き取って葬式を済ませました。ところが母の死亡後3ヵ月以上経過した最近になって、母の債権者という人が現れ、父と私に母の借金を支払う様にいってきました。支払わなくてはいけないのでしょうか。なお、母は生活保護を受けながら、一人暮らしをしていた事が死亡後にわかかりました。また、母の借りていた借家には、家財道具らしいものは何もありませんでした。

A_30 被相続人である母と10年以上音信不通であった事や、母の生活状況からすると、あなたと父が3か月以内に相続放棄をしなかった事が相続財産が全くないと信じた為であり、かつ、そう信じた事は相当な理由がある時に該当する余地がありますから、家庭裁判所に相続放棄の申述をする事ができると思われます。

「相続放棄の熟慮期間とは」

青黄他5冊横_90x100 相続人は、被相続人に属する積極財産、消極財産(債務)を含めた一切の財産を引き継ぐという相続の効果を拒否する事ができ、これを相続放棄といいます。相続人は、相続放棄を家庭裁判所に対する申述によってしなければならず、家庭裁判所が申述を受理した時に相続放棄の効力が生じます。相続放棄をするかどうかを選択する為には、相続の対象になる積極財産と消極財産のいずれが多いかを調査する必要がある為、ある程度の調査期間が必要になります。他方、被相続人の債権者にとっては、相続人に被相続人の債務の請求が行えるかどうかがいつまでも決まらないとすれば、その立場が不安定なままで放置される事になります。そこで、民法915条は「自己の為に相続の開始があった事を知った時」から3か月以内に家庭裁判所に対する相続放棄の申述をしなければならないと規定し、3か月間の熟慮期間を定めています。

「相続放棄の熟慮期間の起算点」

縦本入れ_79x100 そこで、「自己の為に相続の開始があった事を知った時」とはいつを意味するのか、すなわち相続放棄の熟慮期間の起算点はいつかが問題になります。これについて「自己の為に相続の開始があった事を知った時」を文字どおり読みますと、相続人が被相続人の死亡とこれにより自己が法律上相続人となった事を知った時が相続放棄の熟慮期間の起算点になります。
ところが、そうすると、相続人が被相続人と生前に交流がなく、被相続人に債務がある事を全く知らなかった場合に、3か月の熟慮期間が経過するのを待って債権者が相続人に被相続人の債務の支払を請求するケースが生じ、この場合相続人はもはや相続放棄の申述をして債務を免れる事ができない事になります。
そこで、最高裁は、この様なケースを救う為に次の様な判断を示しました。すなわち、「相続放棄の熟慮期間は、原則として、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきものである」としながら、「相続人が右各事実を知った場合であっても、右各事実を知った時から3か月以内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた為であり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態、その他の諸般の状況から見て当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待する事が著しく困難な事情があって、相続人において右の様に信ずるについて相当な理由があると認められる時には、熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から起算すべきである。」と判断しました。この判断は、要するに、相続人が相続財産が全くないと信じただけでなく、そう信ずる事について相当な理由が必要であるとするもので、被相続人が亡くなるまでの生活の状況や相続人との交際の状態により判断されます。

ご質問の場合においても、被相続人である母と10年以上音信不通であった事の他に、生活保護をうけながら一人暮らしをしていたという母の生活状況からして相続財産、とりわけ債務の存在が全くうかがい知れない事等を考えると、相続債務の存在を始めて知った時から起算して3か月間は、相続放棄の申述ができると思われます。
また、相続人が、被相続人の死亡の事実および自身が相続人である事を知ったが、被相続人において全ての財産を他の相続人に相続させる旨の公正証書遺言をしていた事から、みずからは被相続人の積極及び消極の財産をまったく承継する事がないと信じ、かつこの様に信じた事について相当な理由がある場合には、当該相続人についての相続放棄の熟慮期間は、債権者から催告をうけ、これにより債務の存在を知ってから3か月であるとされた事例があります。

「相続財産が全くない場合に限られるか」
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熟慮期間の起算点の繰り下げが認められるのは、相続財産がまったく存在しない場合に限られるか(限定説)、被相続人に相続財産があったとしても、予期しない多額の消極財産が判明した場合にも認められるか(非限定説)という問題があります。
裁判例には、被相続人に積極財産及び消極財産(債務)がある事を認識して遺産分割協議をし、不動産の一部について相続登記を経由し、債務を弁済していた場合に、その後の提訴によって初めて多額の別の債務を知ったとしても、熟慮期間の起算点を繰り下げるべき特別の事‘情があったとはいえないとした事例があります。前述の最高裁判例も、限定説に立つものと解されています。

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