相続 よくある質問 「相続手続きについて」

目次

 


Q_30夫が受取人になっている生命保険金は相続財産か

 

夫が受取人となっている生命保険金は、妻死亡時の相続の対象になるのでしょうか。また受け取った生命保険金額は、本来の相続分から差し引かれるのでしょうか?

A_30生命保険金は相続財産ではなく、相続対象にはなりません。但し、相続人が取得した生命保険金につき、被相続人が支払った保険料合計、または被相続人死亡時に解約した解約返戻金額が、遺贈による特別受益として持戻しの対象となる事が有ります。

「生命保険金と相続について」

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相続は、被相続人の財産を承継するものです。また生命保険金は、人が死亡した事により支払われるという点で相続とよく似ていますし、加えて被相続者が保険料を支払っていたがゆえに死亡時に保険金が支払われるという点でも、相続との間に関わりを持っています。
しかしながら相続人が法律によって定められている相続とは違って、生命保険金の受取人は、保険契約にて個別に定められています。 そこで、生命保険金は、相続財産に含めるべきか、すなわち相続対象になるものとして、相続人間での遺産分割の協議を行えるのかが問題となります。

「生命保険契約の各種形態における相続財産性」

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生命保険契約には色々な形態がありますので、各々について死亡時受取る生命保険金が相続財産であるかどうかを考えてみます。

(ア)生命保険契約にて、被相続人を被保険者としており、相続人中の特定の者を生命保険金の受取人として指名している場合
この場合、受取人として指名された者は、第3者のために行う契約である生命保険契約に基づき、固有の権利として生命保険金を取得します。 即ち生命保険金は保険契約という契約の効果により取得するものであり、相続によって取得するものではありません。

(イ)被相続人が、生命保険の受取人をたんに「相続人」と指定していた場合
この場合における受取人指定は、保険金請求権が発生した当時(被相続者死亡時)の相続人となるべき個人を特に受取人として指定したものと考えられており、即ち(ア)と同様に、生命保険金は相続により取得した財産ではない事になります。

(ウ)保険金受取人の指定がない場合
この場合の保険金受取人は、保険契約の約款により決まります。(ア)、(イ)と同様に、受取人が固有権利として保険金を請求する事ができて、相続財産とならないケースとしては、保険約款にて、被保険者の相続人を保険金受取人としているケース、また被保険者の配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹をこの順位に従って保険金受取人にしているケース等が考えられます。 これに対して、保険約款にて保険金受取人は民法の規定を適用するとされている場合には、保険金請求権は相続財産であるという考え方と、保険金請求権は受取人の固有財産であって相続財産ではないという二通りの考え方があります。

(エ)被相続人が自己を受取人として指定していた場合
この場合、指定された保険金受取人はいない事になりますので、(ウ)と同様に考える事ができます。

(オ)被相続人が指定していた保険金受取人が被相続人より先に死亡したのにも関わらず、被相続人が受取人の再指定をせずに死亡してしまった場合
この場合の受取人は、商法の規定に従い、被相続人が指定していた受取人の相続人が保険金の受取人となります。 この相続人は、受取人が死亡した時の相続順位に従って決められます。この場合においては、上述の(ア)、(イ)と同様、受取人の相続者は、固有の権利として、生命保険金を取得する事になり、相続財産とはなりません。

「保険金受取人の特別受益について」

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生命保険金が相続財産ではなく、保険金受取人が固有の権利として取得するものであるとしても、受取人が相続人でもある場合、他の相続人と比較して、特別の利益を受け取るという観点も考えられ、この特別の利益が、遺産分割を行う場合に、特別受益として持戻し対象となるかどうかが問題となります。
これに対して、最高裁としては、死亡保険金の請求権を得る為の費用である支払ってきた保険料は、被相続人が生前に保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続者の死亡によって、保険受取人である相続人に、死亡保険金の請求権が発生するという観点も考慮すれば、保険金受取人である相続人と他の共同相続人との間に発生する不公平が、民法903条の趣旨に照らしてみた時、到底是認できない程に著しいと評価できる特段の事情がある場合には、同法の類推適用によって、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となるが、しかしながら、原則としては特別受益として扱わなくても良い、と判断をしました。 この点に関しては、別途掲載する「生命保険金は特別受益に当たるか」を参照して下さい。

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Q_30義父名義の土地に妻が建てた自宅に、妻が死亡した後も夫が住み続ける事ができるか

 

私たち夫婦は、新居を建てるに際して、妻の父の了解を頂いた上で、義父名義の土地に妻名義で家を新築しました。私たち夫婦と義父の関係は良く、新築するに際しても、特に契約書等は作っていませんでした。義父の意向もあり同居こそしていませんが、子供たち含め、家族ぐるみで義父の家と行き来をしてきました。 ところが、妻が他界して四十九日の法要も済ませた最近になって、義父や妻の兄弟から、私が義父名義の土地を使う権利はないのだから、建っている建物を撤去し土地を明け渡す様に請求されました。私はこの請求に従わなければならないのでしょうか。

A_30妻が、あなたを始めとした家族と住むために、その父名義の土地の上に自宅を新築し、その際妻の父(義父)がこの新築を了解していたならば、その後に妻やあなたと義父との間で争いが絶えず、往来も全くなかった等の特段の事情がない限り、あなたは義父名義の土地を建物敷地として利用を続ける事ができます。

「土地の利用関係を法律的にみた場合」

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家族の一人が他の家族名義の土地の上に建物を新築する場合には格別の契約書等を作成したり、借地の地代の支払いを約束したりしない方が、むしろ一般的です。建物はその敷地なしには存在する事はできませんから、土地利用に関する関係性を法律的に見た場合には、その土地についての使用貸借契約が存在すると考えられています。
親子等の家族間には、愛情や行為に裏付けられた特別の関係があるわけなので、この関係に基づいて無償で建物用敷地として土地を利用する事の出来る契約が存在すると考えるわけです。従って、生前のあなたの妻と義父の間には、ご質問の土地に関しての使用貸借契約が成立していた事になります。

「借主の死亡と使用貸借契約」

ところで、使用貸借契約では借主による賃貸支払いという対価を伴わないので、貸主と借主間の特別な人間関係を基礎として成り立っていると言える事になり、民法では借主の死亡によって使用貸借契約は終了すると定めています。 あなたの義父や義兄弟は、この法律を形式的に主張しているのかもしれません。
しかし、使用貸借契約は前述の通り、特別な人間関係を基礎として成り立っているので、借主の死亡によって使用貸借契約が終了するかどうかは、この人間関係や意思、及び契約内容等を総合的に考慮、判断する必要があります。

「妻の死亡と土地利用権」

黄赤橙3冊+鉛筆_111x100 翻って考えてみると、あなたの妻は、あなたを始めとした家族と居住、生活する為に自分名義で自宅を新築した訳で、義父もこの妻(娘)の意向を認めて自分名義の土地の上に自宅の新築を了解し、その後もあなたの妻の死亡するまでは何らの異議を言う事もなく、土地の利用を認めてきました。
あなたの妻と義父間の土地についての使用貸借契約は、この土地の上に建物を所有し、この建物で生活をする事を目的としていた訳なので、妻があなたより先に死亡したという、いわば偶然の出来事によってあなたが土地を利用できなくなる事は極めて不合理です。

従って、妻死亡により建物を相続したあなたが、生前のあなたの妻と義父間に成立していた土地使用貸借契約も相続したのか、妻死亡によってあなたと義父間に新たな土地使用貸借契約が成立したのか、あるいは妻の生前に義父との間で成立していた土地使用貸借契約は実はあなたとの間でも成立していたのか等々、細かい事情によって種々の法律的構成が可能ですが、あなたの妻が義父に無断で義父名義の土地に自宅を新築したとか、新築後に義父と極めて不仲になり、使用貸借契約の基礎となっている愛情や好意が喪失したと判断せざるを得ない等の特段の事情が存在しない限り、あなたが妻名義の家に居住し続ける限り、その敷地である義父名義の土地を利用し続ける事は可能です。

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Q_30生命保険金は特別受益にあたるか

 

私は妻の後夫になりますが、このたび妻が亡くなりました。妻は私を受取人として1,000万円の生命保険に入っていたので、私はその保険金を受け取りました。私ども夫婦に子供はなく、妻と先夫との間には子が1人あります。この子が、遺産分割は生命保険の分も入れて考えるべきだと言ってきています。どうしたらよいでしょうか。

A_30生命保険による死亡保険金は相続財産ではなく、遺産分割の対象にはなりません。しかしながら、保険の金額や保険の種類、内容によっては、特別受益として遺産分割の際に持戻しを考慮すべき場合があります。

「生命保険と相続」

赤橙青3冊_91x100 相続人が受取人となって受領した保険金は、被相続人と保険会社との保険契約にもとづき、相続とは無関係に取得したものなので、受取人の固有財産であって、遺産分割の対象となる遺産ではないというのが一般的な考え方です。従って、遺産分割は生命保険の分も入れて考えるべきだという意味が、受け取られた生命保険金を遺産分割の対象にするべきだということであれば、その必要はないという事になります。
この点に関しては、設問「夫が受取人の生命保険金は相続財産か」を参照してください。

「保険金受取人の特別受益」

青黄他5冊横_90x100 しかし、生命保険金が受取人の固有財産であって遺産分割の対象となる遺産ではないという事と、生命保険金を受取人の特別受益とみなして持戻しの対象にすべきかという事とは、別の問題です。
特別受益というのは、相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、また生前に贈与をうけた者がいる場合、これらを特別受益として相続分の前渡しをうけたものとして取り扱う事をいいます。特別受益をうけた者がうけた利益を遺産に戻して相続分を計算する事を、特別受益の持戻しといいます。
生命保険金は、相続人が生前に保険料を支払った事に基礎を有し、また保険契約者である被相続人が受取人を指定する事により受取人が保険金を取得する事ができるというしくみになっています。
この点を実質的に考えれば、被相続人から保険金受取人に対して贈与あるいは遺贈があったとみる事もできます。生命保険金は、遺産分割の際に特別受益として持戻しの対象となるという考え方の由縁です。

最高裁は、死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生する事などにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認する事ができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当であるとするが、原則としては特別受益として扱わなくてよいと判断しました。そして、前記特段の事情の有無については、保険金の額や、この額の遺産の総額に対する比率の他に、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきであるとしました。特段の事情の判断にあたっては、保険金の額及びこの額が遺産全体の額に対して占める比率が重要な事情として考慮されるといわれています。

「持戻免除の意思表示」

青緑ピンク横3冊_123x100 生命保険金について特別受益にあたる場合には、持戻免除の意思表示がなされているとみるかという事が問題になります。
持戻免除の意思表示というのは、被相続人が贈与や遺贈をする際、持戻しをしなくてよいという意思を明らかにする事です。多くの場合で明示的になされる事はなく、黙示的になされたかどうかが問題となります。配偶者に対し、生活保障の目的で保険金を取得させる場合は、持戻免除が黙示的になされていると考える事が十分可能と思われます。今回の質問でも、子のない後夫が受取人として指定されており、また保険金額も1,000万円ですから、特別受益にあたらない、もしあたるとしても持戻免除の意思表示がなされていると考え、遺産分割に際し考慮しない事も考えられると思います。
なお、生命保険金を特別受益とする場合、その持戻しの金額は、払い込んだ保険料の金額、払い込んだ保険料に応じた保険金額、解約した場合の解約返戻金という3つの考え方があり、裁判例も様々です。

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Q_30相続人に未成年者がいる場合の遺産の分割は

 

妻がなくなり、私と未成年の子2人が相続人になりました。妻名義の土地建物や預金を私の名義に変えたいのですが、私が未成年の子2人を代理する事により、私だけで遺産分割協議をする事ができますか。

A_30あなたが親権者として未成年の子2人を代理して遺産分割協議をする事はできません。未成年の子2人のそれぞれについて家庭裁判所で特別代理人を選任してもらい、その特別代理人とあなたで遺産分割協議をして下さい。

「未成年者の行為能力」

青紫緑3冊_100x100 未成年者は単独では「法律行為」をする事はできず、「法定代理人」が未成年者に代わってこれを行うか、あるいは「法定代理人」が同意をして未成年者自身がこれを行う事になっています。この事から、未成年者には行為能力がないといいます。そして遺産分割協議を行う事も、一種の法律行為と考えられていますから、結局未成年者は自ら遺産分割協議を行う事はできず、その法定代理人が未成年者を代理して遺産分割協議を行うか、法定代理人の同意を得て未成年者自身が遺産分割協議を行う事が必要になります。
未成年者の法定代理人というのは、通常親権者をいいます。原則として親権者は父母2人でなりますが、父母の一方が死亡した時は他方の親、父母が離婚した時には指定された一方の親が単独で親権者になります。したがって、ご質問の場合のように母が亡くなった未成年者にとっては父が親権者となり、一般的には父が未成年者の為に親権を行使します。ただし、未成年者のうちで結婚したものがあり、この者が婚姻届を出して法律上も婚姻している場合には、この者は年齢的には20歳未満であったとしても成年に達したものとみなされ、自ら遺産分割協議を行う事ができます。

「利益相反行為」

縦本入れ_79x100 ところで、ご質問の例では、相続人は夫と未成年の子2人の合計3人であり、本来はこの3人で遺産分割協議を行う必要があります。しかし、夫(未成年者にとっては父)が未成年の子2人の親権者として、未成年の子を代理して遺産分割の協議を行う事は、夫(父)と未成年の子との間で利益が相反する事になります。つまり遺産分割協議は、相続人間で客観的、外形的には利害の対立が生ずるおそれがある行為といえますから、法律上は利益相反行為であると考えられるのです。
このように親権者と未成年の子との間に利益が相反する行為をする場合には、親権者は子の代理人となる事は認められず、子の為に特別代理人を選任しなければなりません。また、未成年の子相互の間で利益が相反する場合にも、親権者はそのうちの1人の子の代理をする事はできますが、他の子については代理をする事はできず、特別代理人を選任しなければなりません。
遺産分割協議は先に述べたように、相続人全員の間で、法律上は利益が相反する行為です。したがって、ご質問の場合の相続人である父と2人の未成年の子はいずれも遺産分割協議において利益が相反する事になります。この場合、父は2人の子のいずれについても親権者として子を代理する事はできず、2人の子それぞれについて家庭裁判所で特別代理人を選任してもらい、この特別代理人との間で遺産分割の協議をしなければなりません。

「特別代理人の選任」 赤見開き縦_110x100

特別代理人は、親権者の申立てにより家庭裁判所が選任する事になっています。特別代理人を選任せずに、親権者が自分と未成年者の代理人を兼ねて遺産分割協議に参加して成立した遺産分割は無効になってしまいます。

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Q_30遺産分割協議の話合いがつかないときは

 

相続人間で遺産分割協議を進めてきましたが、どうしても話合いがつきません。どのような手続きをとる事ができるでしょうか。

A_30 相続人間で遺産分割協議が成立しない場合、相続人の1人もしくは数人が申立人となり他の相続人全員を相手方として、家庭裁判所に調停を申し立てる事ができます。

「調停と審判の関係」

青紫緑3冊_100x100相続人間で遺産分割協議がととのわない時は、相続人は家庭裁判所に、遺産分割の調停もしくは審判を申し立てる事ができる事になっています。
調停は、家事調停委員2名と家事審判官(裁判官)により構成される調停委員会が、相続人から事情をきき、話合いで遺産分割についての合意を目ざす手続きです。審判は、家事審判官が適切な分割方法をきめる手続きです。
遺産分割にあっては、必ず先に調停を経なければならないという原則( これを調停前置主義といいます)をとっていませんから、立前上は最初から審判を申し立てる事もできます。しかし、家庭裁判所は審判事件として申し立てられた事件を、いつでも職権で調停を行う事ができる事になっていますから、実務上は審判を申し立てられてもまず調停に付するという扱いになっています。調停で話合いを続けても調停成立の見込みがない時、調停は不成立となり、事件は当然に審判手続きに移って審判手続きが進行します。

「調停申立手続き」

縦本入れ_79x100調停の申立ては、相続人の1人もしくは数人が申立人となり、申立人となる相続人以外の相続人全員を相手方として家庭裁判所へ申し立てます。申し立てる家庭裁判所は、相手方の内の1人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立ては書面または口頭で行う事ができます。口頭で行う場合は、家庭裁判所の書記官に必要な事項を陳述し、書記官が申立ての調書を作成する事になっていますが、家庭裁判所に備え付けてある申立書用紙に必要事項を記入して申し立てる事もできます。

「調停手続き」

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調停手続きは、通常家庭裁判所の調停室において、家事調停委員2名と家事審判官(裁判官)により構成される調停委員会により進められます。家事調停委員は民間人から任命されている者で、家事調停手続きの多くは、審判官は出席せずに調停委員2名により進められています。調停委員会は、申立人、相手方の両方から順次、遺産の範囲、遺産分割の方法、特別受益の有無といった点について主張をきき、双方に譲歩を求め、できる限り話合いによる合意を目ざします。
話合いの結果遺産分割について相続人全員の合意ができた時は、調停調書を作成してそこに遺産分割の方法を記述します。

「審判手続き」
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調停手続きを進めても相続人間の意見の対立が解消せず、遺産分割に関する合意の成立する見込みが立たない場>合は調停不成立となり、当然に審判手続きに移行します。
審判手続きは、家事審判官(裁判官)が職権により事実の調査をし、かつ申立てにより、または職権で、必要と認める証拠調べを行い、もっとも適切な遺産分割の方法を選択して審判を出します。職権によりといっても審判官が全ての事実や証拠を捜し出す事は実際上不可能ですから、相続人として積極的に事実を述べ証拠を提出する必要があります。
家事事件手続法では、相続人(当事者)は、適切かつ迅速な審理及び審判の実現の為、事実の調査及び証拠調べに協力する事が定められました。

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Q_30寄与分はどのような場合に認められるか

 

私の妻は数年にわたる病気療養の末、亡くなりましたが、その間もっぱら私が妻の看病をし、身の回りの世話をしてきました。実は、妻には死別した先夫の間に息子がおりますが、既に結婚して家を出ており、妻のもとをごくたまに訪れる程度でした。これから私と妻の息子との間で、妻の遺産相続について話合いをしなくてはなりません。私が妻の療養看護に尽くした事は、遺産相続にあたり考慮してもらえるでしょうか。

A_30 あなたが妻の療養看護に尽くした事により、看護人や家政婦に支払う費用の支出を免れて、妻の財産の維持または減少の防止がはかられた場合であって、かつ療養看護の内容が夫婦の通常の協力義務の程度をこえている場合には、寄与分として考慮されます。

「寄与分とは」

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寄与分とは、相続人の中に被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がある場合に、その者に法定相続分以上の遺産を取得させる制度の事をいいます。ご質問の場合、夫と息子の法定相続分はそれぞれ2分の1ですが、夫に寄与分が認められる時は、夫は2分の1以上の割合の遺産を取得する事ができます。
民法904条の2に定められている寄与行為には次のような類型があります。
(1)被相続人の事業に関する労務の提供
被相続人の営む農業、商業などの事業に、相続人が従事する場合です。
(2)被相続人の事業に関する財産上の給付
被相続人の営む事業について相続人が資産を提供したり、被相続人に代わって債務を弁済したりする場合です。
(3)被相続人に対する療養看護
病気になったり怪我をした被相続人を看護したり、身の周りの世話をする場合です。ご質問はこの場合にあたるかどうかが問題になります。
(4)その他の方法
以上の方法以外に、被相続人の財産を維持または増加させる行為をいいます。家事労働、扶養、事業に関わらない財産の給付などが考えられます。

「被相続人に対する療養看護の程度と寄与分」

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被相続人に対する療養看護は、相続人自ら労務を提供して療養看護を行う場合と、第三者に療養看護をさせる場合が考えられます。いずれの場合も、被相続人が療養看護の為の費用の支出を免れる事によって、被相続人の財産の維持または減少の防止がはかられた事が必要です。第三者に療養看護をさせる場合は、その費用を被相続人の財産から支出するのではなく、寄与を主張する相続人が負担する事が必要です。

次に、被相続人に対する療養看護は、相続人との身分関係から当然期待される範囲のものは寄与分とは認められません。夫婦の間には互いに同居し、協力し、扶助する義務がありますし、親子や兄弟姉妹の間には互いに扶養する義務があります。これらの義務の範囲内の行為は特別の寄与にはならないと考えられます。

ご質問で、夫が病身の妻の世話をしたが、その大部分を介護士や家政婦の手に任せ、その費用は介護保険や妻の年金によりまかなわれている時は、夫に妻の療養看護について特別の寄与があったとは認め難いでしょう。夫が配偶者としての通常の協力義務の範囲をこえて、献身的に妻の療養看護に尽くした場合に初めて特別の寄与として評価されるでしょう。

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Q_30ローンがあるときの遺産分割は

 

私の母が亡くなり、その遺産として自宅の土地、建物がありますが、自宅を建てたときの住宅ローンも残っています。私がローンを引き継いで、自宅の土地、建物を相続したいと思いますが、できるでしょうか。

A_30 債務は相続により共同存続人が相続分に従って分割されて継承する事になるものですが、相続人間で話し合って一人が債務を引き受けるという合意をする事はできます。ただし、この合意を債権者に対抗する為には、債権者の承諾が必要です。

「金銭債務の相続」

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ローンというのは、被相続人である母の金融機関に対する債務の事ですから、この様な被相続人の金銭債務は相続によりどうなるのかという事が問題です。金銭債務は、通常の場合一身専属性を有しませんから、当然相続の対象になり相続人が承継する事になります。

そして、金銭債務の様な可分債務の相続人への帰属の仕方について、判例は一貫して分割債務説の立場をとっています。つまり、可分債務は遺産分割協議をしなくても当然分割されてしまい、共同相続人が相続分に応じて債務を承継し、他の共同相続人の承継する債務について連帯責任を負う事はないとする考え方です。この考え方によると、ご質問の場合では、仮に亡母の金融機関に対する債務が1,000万円残っており、夫と子2人が相続人である場合に、妻が500万円、子2人がそれぞれ250万円の債務を承継する事になります。
この分割債務説に対しては、債権者にとっては、相続という偶然の事情により債権が細分化され取り立てが繁雑になるばかりか、相続人の中に資力の乏しい者がいると取り立てが不可能になり、債権者に不利益を強いるものであるとの批判があります。
しかし、判例は一貫して分割債務説の立場をとっており、遺産分割の調停や審判の実務もこれに従っていると考えられる事、また実際上も、債権者は債務者の死亡という事態を予測して、物的担保の設定や保証人を求める事も可能である事からすると、一概に債権者に不利益であるとは言い難いと思います。

「遺産分割協議との関係」

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金銭債務の相続について分割債務説をとる以上、金銭債務は相続開始により当然に共同相続人に分割されて承継されるので遺産分割の対象とならず、遺産分割協議の余地はない事になります。裁判例においても、「遺産分割の対象となるものは被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は、相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配せられるものではない」と明示するものが多数あります。従って、理論上は被相続人の金銭債務は遺産分割の対象になりません。
しかし、実際上は、積極財産についての遺産分割協議や遺産分割調停の際に、債務の承継について話合いがなされ、相続人間で特定の相続人だけが債務を引き受ける様な合意がなされる事があります。この様な合意は、金銭債務を相続人が分割承継する事を認めた上で、相続人間で、いわゆる免責的債務引受契約をした事になります。そして、この免責的債務引受契約の効果は、債権者の承諾がなければ債権者に対抗する事はできません。
そこで、ご質問の場合で、相続人の1人がローンを全部引き継いで、他の相続人が債務を免れる為には、相続人間で合意した上で、債権者である金融機関の承諾を得る必要があります。金融機関としては、当該ローンについて担保を設定してある不動産を免責的債務引受をする相続人が相続する場合には、担保の実質的価値も考慮した上で、免責的債務引受を承諾する事が多いと思われます。
免責的債務引受契約について債権者の承諾が得られない場合には、債務引受の効果は、相続人間でしか認められません。したがって、相続人は、債権者からの相続分に従った債務の請求を拒む事はできません。ただ、債務を引き受けていないにもかかわらず債務を支払った場合には、債務を引き受けた相続人に対して求償する事はできます。

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